お知らせ

Mさん(Lancaster University, Biochemistry / Christ's Hospital出身)

Undergraduate最終学年のThird yearは自我を見つめ直し、自らの進む道を定めることにも繋 がった大きな転換期となりました。
そして改めて多くの方々から影響を受け、支えられ、運と縁に恵まれて、ここまで進んでこられた ことを強く実感することが出来ました。

自身と向き合うきっかけとなったのは、Term1の終り頃、Biochemistryのコースを続けていくことに 違和感を覚えた時でした。入学当時に自分が興味があると思っていたコースだったにも関わら ず、どこか学びたいと思うModuleよりも学ばなければならないと感じてしまうModuleが増えるよう になってしまっていました。Biochemistryは化学の必須Modulesが多いために、自身がより興味 のあった癌領域や病理学、免疫学のModuleが単位や授業時間の影響で選択出来ないことも重 なり、この先Masterも含めてBiochemistryを引き続き学んでいきたいのか不確かになっていまし た。以前から科学雑誌やドキュメンタリーに興味があったため、Undergraduate卒業後に Scientific writing and filmingのMasterに進路を変えようかと、真剣に悩み始めていた時期もあり ました。
今思い返せば、未来の自分の方向性に彷徨ってその場に立ち止まって足踏みをしていたのはこ の時が初めてだったと思います。英国留学前から明確な目標や夢を持ち、パブリックスクール在 学中も大学入学以降も根本的な部分は変わらず、一直線に突っ走ってきたので、自らの進む道 に違和感を覚えて立ち止まってしまうことは内心本当に苦しくもあり、同時に不安と恐怖を感じま した。
しかし、ここでも私は人との繋がりに大きく助けられることとなりました。両親をはじめ、ダンス サークルの友人たちやCHの頃のホストファミリーと話し、相談に乗ってもらったことで自身の歩ん で行きたい道を再度見つめ直すことが出来ました。Tutorの助言もあり、Biochemistry majorから Biomedicine majorに専攻を変更したことで、Cancer / Pathobiology / Immunology modulesで 私たちの免疫システムから着想を得た癌の免疫療法をはじめとした最先端の医薬品のメカニズ ムやターゲットとなる病気の生命科学的な病理学等を学ぶことが出来ました。 また一年間を通して六つのmodulesと並行して仕上げた卒業論文はSupervisorの研究室の都合 に合わせて、Term2に進めました。『皮膚がんと悪性脳腫瘍におけるサイクリン依存性キナーゼ 阻害薬によるCiz1タンパク質の過剰発現の減少を通じた癌治療の可能性』を研究タイトルとして 掲げ、三か月という短い期間ながらもCDKを通じたCiz1を標的とした将来的ながん治療法の可 能性・複数の癌においてCiz1レベルの予後因子バイオマーカーとしての可能性・Ciz1レベルを相 対的に利用した適正な薬剤投与患者グループの選別への応用について、提示することが出来ま した。
まず、癌ゲノミクスデータが保存されているデータポータルcBioPortalを使用し、37種類の癌タイ プから統計学的にCiz1の過剰発現が患者さんの低い生存率と強い関連性が見られた7種類の 癌タイプを特定しました。その中でも圧倒的に生存率が低い、ないしは未だ治療法が限られてい る悪性脳腫瘍と皮膚がんに絞って実験を進めました。それぞれの癌細胞に4種類のCDK阻害薬 を投与し、研究対象のCiz1タンパク質と比較基準のActinタンパク質の相対的定量の変化をウエ スタンブロッティングを通じた分析からCDK2阻害薬の投与後、Ciz1タンパク質レベルの減少が 見られました。その他にもプロテアソーム阻害薬とCDK阻害薬の併用とCDK阻害薬のみの投与 下で比較することでCDKとプロテアソームによる相殺的なCiz1レベルの制御モデルの再提示を 結論付けることにも繋がりました。
しかしながら細胞を相手にしているため、思うように皮膚がん細胞の増殖が見られなかったり、ウ エスタンブロッティングのCiz1タンパク質バンドの発現が見られなかったりと想定外の実験結果も 出たことから、その都度実験方法を見直し、複数回にわたって実験を繰り返すこととなりました。
二転三転する実験方法をラボで事細かにメモし、それを実験段階や実験手法でカテゴライズし、 論文内で効率的に記述する必要がありました。
また想定外の実験結果も既存の論文との相違点に注目し、客観的に分析し、論理的な結論を導 く力が試された卒業論文だったと思います。

BiochemistryからBiomedicineへの専攻変更、卒業論文の計画・進行と同時に今後の自身の姿 も想像できるようになりました。実際卒業論文と並行して3月中旬頃から、就職活動を進めていま した。はじめは大学のJapanese Societyで告知されるキャリア情報を通じて、海外大生向けの就 活サイト(Fast Offer / Career Forum Net)を活用していましたが、サイト内に掲載されている企業 情報が商社や銀行・コンサル・証券系列の企業に偏っており、製薬・生物化学系の企業情報は 非常に数少ないものでした。理系企業への就活情報が薄い中、卒論と授業時間の合間を縫いな がらの企業研究(主に製薬企業)、そして最終的にはリクナビ・マイナビを通じて惹かれた4社に 絞って選考書類の提出に臨みました。その後の面接もオンラインで参加することができ、無事に 全ての選考過程をイギリスから終えることができました。
Master卒業後、来年から迎える新たなスタートに胸が高鳴ると同時に、患者さんやその家族がよ り良い人生を歩めるような医薬品開発に携わるという夢を追い続けられたのは恵まれた環境と 人々に巡り合えた縁があったからこそだと感じています。

今年度はAcademic面以外でも、ダンスサークルでは初めてAdvanced Ballet Squadの振付に挑 戦し、大学対抗大会では2位獲得に導くことが出来ました。渡英してから5年という歳月が経ち、 自身の人生の1/4近くをイギリスで過ごしてきたことに驚きを感じるとともに、多くの転機があった これまでの道のりは自身の努力だけでは進んで来られなかったと思います。あと1年、学生として の最後のイギリス生活、決して悔いのないよう、田崎理事長をはじめ、財団の皆様、家族そして 友人達に感謝の心を忘れずに更に成長していきます。